神や仏の真実に疑問を持つ少年は、髪の長い少年と出会い、世界の中心へ旅立つと予言されるが…。少年の目を通して世界の真実を探求する寓意的な物語。レディオヘッドのキッドAから生まれたこの世の真実の物語。abejunichiが書く1作目のグローバルノベル。
Genre: FICTION / GeneralKID A
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「神さまや仏さまは本当にいるの?」
少年は時々、まっすぐな迷いのない口調で尋ねる。もちろん少年の両親はそういう疑問のひとつひとつに丁寧に答えようとしてきた。わからないことを懸命に調べ、考え、少しでもためになる答えを与えようとした。時々は、自分がかつて少年や少女だった記憶を思い出し、自分の父や母が、いったいどういうふうにそういうことについて答えてきたのか思いをめぐらせた。そこには少年に対する親としての責任がある。しかし、少年の口調には嘘を許さない絶対的な響きが横たわっている。そういうまなざしに対して、父と母は大人の知恵をもっても確かなことを答えることができない。父と母にできることは、その本当の答えを自分自身の力で少年が知ることができるよう、せめて導くことだった。だから、父や母は、泣き叫ぶように真剣な少年の疑問に「自分で考えてごらん」と言った。
少年は、神さまや仏さまを自分が信じているのか、まだわからない。けれど、何か悪いことをした時に父が言う、「きっと神さまがみているのだぞ」という言葉は、少年にとってどことなく真実の響きがある。でも、そういう言葉だけで悪いことをやめることができない時は、父におしりをぶたれたり、真っ暗な家の外に放り出されたりして、報いを泣き叫ぶまで感じることになる。だから少年にとって、神さまや仏さまという善き存在に逆らうことは、相応の罰を受けることだ。恐怖はいつまでも少年の身体に深く残っている。
ある時には、眠らずにひと晩中、窓辺から星空を見上げて願う。そうしていると夜空の星のまたたきが、はるか遠くの世界から、かすかな希望をもたらせてくれるような気がする。空には月も輝いていて、真っ暗な闇の世界にいちばんの輝きを与えている。その光が少年の心を強く惹きつける。だからまだ眠ることはできない。窓の向こうには少年の家と同じような家が沢山ならび、その向こうには、見知らぬ世界が広がっている。ふつうの少年や少女なら、もう寝てしまっている時間。けれど、少年は願い続けている。何かわからない、心の渇望にまかせて。
心の中にある不安は、より強い願いへと昇華される。
しかし、少年の問いかけの答えが、神さまや仏さまによってもたらされることはない。生まれてきてこれまで、何度も願ってきたことの多くは、叶えられることなくいつまでも宙に浮かび続けている。沈黙がいつまでも闇夜に横たわっている。なぜ願いは届かないのか。少年は、父や母が言う神さまや仏さまの存在に、少しずつ疑問を抱くようになる。
Language | Status |
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English
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Already translated.
Translated by Michelle Hughes
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Author review: ミシェルさんはとてもしっかりとテキストを読んでくれます。翻訳の質も高く、わからない部分も相談をしながら丁寧に読みこんでくれます。締め切りにも遅れることなく、チャプターごとに翻訳のテキストをこちらに送信して、話し合いながら翻訳ができました。日本語で翻訳のチェックのやりとりを行うことができて、英語が話せなくても自分の物語を世界に伝えることができました。 |